●第15話「それぞれの道〈後編〉」
「またお前かギン! いいかげん隊長の指示に従え!」


廃工場の一角。
傷ついた拳を手で押さえながらうずくまる黒髪の少女
-中学生時代の鬼龍院銀花の周りで、
特攻服姿の少女たちが口々に批難の声をあげている。

その中央、銀花はこめかみに薄く汗を浮かべ、
野良犬のような目で周囲の少女を見上げている。


「まぁ落ち着けお前ら……」

周囲の少女を手で制しつつ銀花に近づくのは
長い金髪をポニーテールにした長身の美少女、一条真琴である。


「なぁギン、お前何でいつもひとりで突っ込んでいくんだ? 仲間と協力した方が安全だってのは分かってんだろ?」

ふっと微笑みを浮かべた真琴はそう言って銀花に手を差し出した。


差し伸べられた手を見つめ、何故か一瞬、ビクリとした表情を見せる銀花。


やがて真琴の手から視線を逸らした銀花はおもむろに立ち上がり、
ポケットから取り出した布を傷ついた拳に巻き付けはじめた。


「私がここにいるのは、“暴れる場所と“壊すもの”があるから。アナタたちとつるむつもりはないわ」

ボソボソとした口調でそう言った銀花は、
周囲の人間を無視して立ち去ろうとする。


「おい! 総長直々のお言葉だぞ! 新入りがナメた態度とってんじゃねぇ!!」

〈ガッ〉

「!」

いきり立った少女のひとりが銀花の胸ぐらを掴む。


「…私より弱い人の言うことなんか聞かない。文句があるなら叩きのめしてみれば?」

冷たい笑みを浮かべた銀花は少女を挑発するような言葉を漏らす。


「! テメッ!!」

〈ガッ〉

そう叫んで振り上げた少女の拳を銀花がこともなげに掴む。

〈ダン!〉

そのまま少女を引き倒した銀花は
勢いに任せてマウントポジションをとり、
冷たい目で少女の顔を見下ろす。

やがて銀花が無言で拳を振り上げた。


「ク、クソッ…!」

少女の顔が恐怖に歪む。

と、そのとき。

〈ヒタ…〉

銀花の首元に冷たい木の感触が伝わって来た。


「……そこまでだ。度胸と腕っ節の強さは認めるが、仲間を傷つけるつもりなら容赦しねぇぞ」

その言葉を聞いた銀花が振り返ると、
真琴が木刀を自分の首元にあて、ギラリとした視線を向けているのが分かった。


「…やってみれば? 木刀なんかで何ができるのか知らないけど」

不敵な表情を浮かべた銀花が余裕を見せるかのように目を閉じる。


「何ができるかだって…? 色々できるぞ。たとえば……このままお前の首を刎ねたりな」

と真琴。木刀に込められた力が少し強くなる。


「…は? 馬鹿じゃないの? そんなことできるわけ…」

真琴のその言葉を聞いた銀花は再び目を開き、真琴の顔を見上げた。



そこには鬼か悪魔かと疑う程の殺気のこもった目で
自分を見つめる真琴の姿があった。



「……!」

その迫力に圧倒された銀花がぞっとした表情を浮かべ、額に汗を浮かべる。


やがて気を取り直したようにキッと表情を引き締め、真琴の目を睨みつける銀花。
真琴も銀花から視線を逸らさない。


しばらく、そのままの体勢で睨み合いが続いた。



「…………フン、ちょっとおどかしただけよ」


やがてフゥとため息をつき、ボソリとそう呟いた銀花は
立ち上がって少女を解放し、その場を離れて行った。


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「ふうー…ビビったぁ。ったく、何だよアイツ…猛獣みたいな目しやがって」


銀花の姿が視界から消えると真琴は大きく息をつき、
地面に立てた木刀にしがみつくような体勢でその場にしゃがみ込んだ。


「す…すまねぇ総長。しかし助けてもらってこんなこと言うのもなんだが…ひと太刀くらい、お仕置きにくれてやっても良かったんじゃ…」

顔に汗を浮かべながら先ほどの少女が言う。


「何言ってんだ……アイツが闘ってるとこ見ただろ? 反撃されたら、骨の1本や2本じゃ済まないぞ」

やれやれと頭を振りながら真琴が言う。


「それにアイツ、ガキのくせに全くスキがなかった。アタシが本気〈ガチ〉でやっても、正直勝てるかどうか…」

こめかみに汗を浮かべ、銀花が消えて行った方に視線を向ける真琴。


「え……じゃあさっきのは……」

キョトンとした表情で少女が言う。


「ハッタリに決まってんだろ。常識で考えろよ、たかが木の棒で人間が斬れるか?」

肩をすくめながら真琴が言う。


それを聞いた周囲の少女たちがポカンとした表情を浮かべる。

ひと呼吸置いて一同が同時にプッと吹き出す。


「さすが、アタシらの総長だな! やっぱアンタが大将だわ!」


やがてその場はどっと大きな笑い声に包まれた。


その笑い声の中心で、真琴もニッと楽しげな笑みを浮かべた。


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「総長、クイーン…やっぱりアイツ〈ギン〉はダメだ。アイツがいるとチームが乱れる…もう追い出しちまおうぜ!」


レディースチーム「悪仇零(ワルキューレ)」のアジトである廃工場。
OGである如月麻耶と真琴に対し、口々に銀花排斥の意見を述べ、詰め寄るメンバーたち。


「フム……実力はたしかなんだが……。飼い慣らすことができないとあっちゃなぁ……」

ポリポリと頭を掻きながら麻耶がため息をつく。


「………」

その横で神妙な面持ちを浮かべ、俯きがちのアゴに手を当てている真琴。


やがて真琴がすっと顔を上げる。


「………いや、アタシは反対だ」

「えっ?」

真琴のはっきりとした言葉に、キョトンとした表情を浮かべるメンバーたち。



「アタシらはみんな同じ……大なり小なり問題抱えてやってきたはみ出し者ばかりだ。だから、ここで初めて“仲間”に出会い……心救われた者だって多いはずだ」

真琴は凛とした表情で言う。


「総長……」

ギクリとした表情を浮かべて黙り込むメンバーたち。


「ここでアタシらに追い出されたら……アイツはどこに逃げれば良い? 自分たちが世の中にされてきたことを、今度はアイツにするつもりなのか」

真琴はそう言ってメンバーたちの顔を見回す。


「………」

意気を削がれたメンバーたちは、しょぼんとした表情で顔を下に俯けた。



「…まぁ実際、このままだと良くないのもたしかだ。真琴、お前どうにかできるのか?」

沈黙を破るかのように真琴に声をかける麻耶。



「……わかった……ギン〈アイツ〉の件は任せてくれ。アタシがなんとかする」

小さく頷いた真琴は、そう言って視線を遠くに向けた。


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「ギン! 何度も言わせるな! 援軍が到着するまで待て!」

「私に命令しないで!」


真夜中の港。
抗争の最中、真琴が銀花に声をかけている。


「仲間を信用しろ! 必ずお前を守ってくれる! 力をあわせるんだ!」

「嘘! 私に味方なんていない!」


真琴の懸命な説得も虚しく、ひとりで敵の本陣に突っ込んで行く銀花。


〈くそ……今回の敵〈チーム〉は格上なんだぞ! いくらアイツでも……このままじゃやられちまう!〉

心の中で呟きながら、汗ばんだ顔で銀花の背中を見つめる真琴。


「総長! 偵察隊から報告が……! やつら、何か妙な罠を仕掛けてるらしいぜ!」

マスクをした少女のひとりが真琴に駆け寄りながら言う。


「罠……!?」

こめかみに汗を浮かべた真琴が振り返りながら呟いた。


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〈? 敵のボスがいる場所にしては妙に暗い……?〉


港の一角、巨大な倉庫にやって来た銀花は
心の中でそう呟きながら暗闇の中を進む。

と、そのとき。


「よし、今だ!!」

〈ガシャン!〉


少女の叫び声がどこからか聞こえ、
銀花の足下が急激にせり上がる。

「!?」

慌てて飛び退こうとした銀花であったが、
すでに手遅れだった。

〈ジャラジャラジャラ……ガシャン!〉


天井に固定された滑車を通してチェーンが巻き取られ、
クモの巣状に広がっていた鉄製の網が銀花を包み込むようにして上から吊り下がる。


「な………!?」

状況をうまく飲み込めない銀花が困惑の声を漏らす。



〈パッ〉


やがて倉庫の中の照明が点灯し、
周囲にいる人間の姿を浮かび上がらせた。


「……よぉ、お前が“ギン”とかいう怪物ルーキーか。最近、ずいぶん派手に暴れ回ってるらしいなぁ」

倉庫の中に積まれた木箱の上から、
敵のボスと思しき人物が語りかけて来る。

お世辞にも美人とは言いがたい、人相の悪い少女である。


「しかし、どんなに強かろうが、そうなっちまえば文字通り手も足も出ねぇだろ?」

ニヤニヤしながらボスが木箱から飛び降り、銀花に近づいて来る。


「………卑怯者」

ようやく状況を理解した銀花は、眉間にシワを寄せながらボソリとそう言った。


「“勝てば官軍”って言葉もあるからな……まぁ、好きにわめけよ。おいお前ら!」


ボスはそう言って周囲の少女に声をかける。


人相の悪い少女たちが、釘バットや木刀を握りしめてじりじりと近づいて来る。


「死なない程度にいたぶってやんな! 特に…この無駄にキレイな顔は念入りに潰しとけ」

ボスはそう言って銀花の顔を指差す。


「……!」

鎖を握りしめた銀花のこめかみに汗が浮かぶ。


「ヘヘヘ、ボスの命令だ……アタシらを恨むんじゃねぇぞ」
「どうする? 髪を燃やしてやろうか、それとも皮を剥がしてやるか」
「アタシらがチャーミングに整形してやるよ」

ニヤニヤしながら近づいて来る人相の悪い少女たち。



〈……ちぇっ……もうゲームオーバーか……まぁ少しは退屈しのぎになったし……もうどうなってもいいや〉


心の中で力なくそう呟いた銀花は、観念したように目を閉じる。


すると銀花の頭の中に懐かしい声が響いて来た。


-ねぇねぇ、ギンちゃんの顔って絶対私似よね!-
-そうだなぁ…あ、でも耳の形は俺じゃないか?-


それは銀花の母親が健在だった頃の記憶だった。
仲睦まじく会話する両親の声を、幼い銀花がキョトンとした顔で聞いている。


-ねぇギンちゃん、顔は女の命なんだからね? 傷つかないように気をつけるのよ?-


母親が優しげな表情で語りかけている場面が蘇る。


銀花がはっとした表情で目を見開いた。



「………お母さん……ゴメンね………」

やがて、銀花が力なく呟く。

銀花の頬を掴んだ人相の悪い少女のひとりが
ナイフの切っ先をそこにあてがう。


と、そのとき。


「おいおい、ここで呼ぶべきは“お母さん”じゃねぇだろ?」

どこからともなく声が響いて来る。


「!?」

銀花の周囲に集まっていた人相の悪い少女が一斉に振り向いた。


〈ズバッ!!〉
〈ビシッ!!〉

風を切る音とともに、
“ぐっ”や“げっ”などという少女たちの断末魔が倉庫に響く。

銀花の視線の先、人垣のすき間から見えたのは、
長い金髪と白い特攻服の裾を翻しながら舞う美少女の姿だった。


「!? な、誰だ……っ!!」

戦慄した敵のボスが後ずさりながら叫ぶ。


「“悪仇零”二代目総長・一条真琴…そこにいる突進バカの仲間だ」

そう言うと真琴は木刀を肩に乗せて銀花を指差した。


「金髪のポニーテールに木刀……! そうか、お前が“剣神”か!! フン…バカはどっちだ? おいお前ら! 大物を仕留めるチャンスだぞ!」

ボスが周囲の少女に呼びかける。


「うるせぇ! ウチのゴールデンルーキーを返しやがれ!!」

そう叫んだ真琴は、電光石火の勢いで斬り込みながら
捕らわれた銀花に向かって突き進んで行った。


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「ハァ……! ハァ……!」

「チッ! さすがにしぶとい…! なかなかくたばらねぇな」


捕らわれた銀花の眼前で、額から血を流した真琴がヒザをつく。
ポニーテールを束ねていたリボンがほどけ、長い髪が下に降りている。
大勢の味方を背中に背負ったボスがイライラした表情で真琴に言葉を投げかけている。


「ねぇ! もういいから逃げて! このままじゃアナタまでやられる!!」

青ざめた銀花が鎖の中から真琴に呼びかける。


「大丈夫だ……あと少しで援軍が来る」

真琴が荒く息をつきながら答える。


「それになギン……体張って仲間守んのは、頭〈ヘッド〉の役目だ……アタシは今、必要なことをやっているだけだ」

真琴がアゴを伝う汗を拭いながら言葉を続けた。


「やめて! 私はアナタのことなんか仲間だなんて思ってない!! 早く消えて! 迷惑よ!!」

うっすらと目に涙を浮かべた銀花が必死で叫ぶ。


「ヘッ、なんとでも言え……これがアタシの信念だ。たとえ神様が“違う”と言っても、お前はアタシの仲間だ……!!」

銀花に視線を向けた真琴が、ニッと笑みを浮かべながら言う。


「-!」

銀花が目を大きく見開く。


と、そのとき。


「ちっ、ラチがあかねぇ……こっちから先に潰してやる!!」

人相の悪い少女のひとりが、
真琴がいる方とは逆方向から近づき、銀花に向けて釘バットを振り上げた。


「! しまった!!」

はっとした様子の真琴が慌ててそちらに飛び込む。


〈ゴギン!!〉

「ぐっ……がっああ!!」


木刀を構える余裕が無かった真琴は少女の前に立ちはだかり、
銀花への攻撃を体で防ぐ。

真琴の肩にまともにめり込んだ釘バットが、
骨を砕き、肉を抉る。


「! よっしゃあ! 今だ!! 潰〈や〉れぇ!!」

目をギラリと輝かせ、興奮した少女たちが
真琴と銀花に一斉に襲いかかる。

と、そのとき。


〈ザザザザッ〉

特攻服姿の少女たちの群れが
勢い良く倉庫に飛び込んで来た。


「総長ー! 無事ですかぁ!! 援軍を連れて来ました!!」

少女のうちのひとりが口に手を添えて叫ぶ。


なだれ込んで来た少女たちにより
倉庫内で激しい抗争が始まる。



「チッ……おせーんだよバカ……」

その光景を見た真琴が疲れ果てた様子でへたり込み、
苦笑いを浮かべながら呟いた。


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「ギン、何だ? 今日のザマは…ひとりで突っ込んで総長に迷惑かけて…少しは反省してんだろうな?」


抗争の軍配が“悪仇零”を含む連合軍にあがり、
鎖の罠から解放された銀花に向けて“悪仇零”のメンバーが語りかけている。


「………」

銀花は不遜な態度でメンバーから顔を逸らした。


「! テメェまだ……っ!!」

銀花の態度に顔をゆがめたメンバーがその胸ぐらを掴む。


「よせ」

メンバーが伸ばした腕を掴み、諌めようとする真琴。
鎖骨骨折の応急処置として、敵の攻撃を受けた方の腕が三角巾で固定されている。


「……なぁお前ら……悪ぃけど、今から少しだけコイツと二人きりにしてくんねぇか?」

ふとメンバーたちに声をかける真琴。

メンバーたちが顔を見合わせながら眉間にシワを寄せる。


「……なぁ総長……そいつぁもうダメだぜ」
「アンタが諦めても、誰も文句は言わねぇからな…?」

メンバーたちは不服そうに言葉を漏らしながらその場を離れて行った。


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「なぁギン……お前のお袋さん、もう死んじまってるんだってな」


倉庫を出て、埠頭の縁に腰掛けた真琴は
一人分の間隔を空けた場所でヒザを抱えている銀花に向けて言った。


「………」

銀花は無言で俯いている。


「ウチは父さんだ……交通事故で死んじまった。居合い道場で師範をやってたんだけどな…すごく優しくて、大好きだった」

真琴は昔を懐かしむような柔らかい表情で語る。


「お前ん家はたしか空手道場だっけか…なぁ、アタシらってさ…なんかちょっと似てると思わねぇか?」

ニッと笑みを浮かべながら問いかける真琴。


「…全然似てない。私はお母さんがいないこの世界で、そんな風に笑えない」

銀花はヒザを抱える腕にぎゅっと力を込める。


「アナタみたいに人を信じたり、人から信頼されたりできない……私にはひとりがお似合いなのよ」

それだけ言うと、銀花はヒザに顔を埋めて黙り込んだ。



「いや……お前にはリーダーの資質があると思うぞ」


しばらくの沈黙のあと、真琴はボソリとそう言った。


「!? 何言ってるの? そんなわけ……」

困惑の表情を浮かべた銀花が思わず顔を上げる。


「だってさ、お袋さんが死んでそんなに落ち込むってことは…それだけ大切に思ってたってことだろ? リーダーも同じさ…仲間がやられたら自分のことのように悲しみ、怒らなきゃいけない。仲間がやられてヘラヘラしてる奴が、信頼されると思うか? 人を大切に思えるやつってのは、“カリスマ”に大化けする可能性があるもんさ」

真琴はそう言って銀花の方を向く。


「そんなの、ヘリクツだよ……」

拗ねたような様子の銀花が小さく呟く。


「お前はさ、お袋さんのことを大切に思ってたみたいに、今の仲間のことを大切に思ってやればいいのさ。そうすりゃ、もう少し楽しく生きていけると思うぜ」

真琴はそう言って顔を正面に向ける。

朝日が少しずつ昇りはじめていた。


「ただ…人の死を悲しむのはいいが、いつまでもウジウジしてんのはやっぱダメだと思う。たくさん泣いて、たくさん怒ったあとは、たくさん笑う…アタシがリーダーとして理想としてるのはそんな人かな」

そう言うと真琴は立ち上がり、昇ってきた朝日に向かってんんっと伸びをした。


「………」

少し表情を柔らかくした銀花が、真琴の顔を無言で見つめる。



「………私に……リーダーの資質が……?」

やがて真琴から視線を逸らした銀花が不安げな表情でボソリと呟く。


「さぁて、そろそろ帰るか……仲間たちが祝勝会の準備をして待ってる」

そう言って振り返り、アジトに戻ろうとする真琴。


「………ねぇ、ひとつ質問してもいい?」

銀花が小さな声で、おずおずと尋ねる。


「ん?」

口元に笑みを浮かべた真琴が再び銀花に視線を向ける。


「もし……信頼している仲間に……友達に裏切られたときはどうすればいいの……」

真琴から視線を逸らしたまま、銀花が尋ねる。



「そうだな……仕返しに、もう一度信頼してやれ」


しばらくの沈黙のあと、真琴はきっぱりとそう言った。


「!? ど、どういうこと……」

目をパチパチとさせた銀花が質問を重ねる。


「いいか? どんな人間にも“良心”ってやつがある。それを逆手にとって精神的に追いつめてやるのさ」

真琴がニヤニヤといたずらっぽい笑みを浮かべる。


「裏切られても、傷つけられても…ゾンビみたいに立ち上がって、何度でも信頼してやれ。そのうち向こうも根負けして、こっちを信頼してくる…そうすりゃ勝ちさ」

真琴はそう言って銀花にウインクをした。


銀花はポカンとした表情でそれを見つめる。


「“勝ち”って……何それ?意味わかんない」

やがて思わずプッと吹き出した銀花があどけない笑みを浮かべる。


「おっ! お前笑うとカワイイな!」

「!」

顔を輝かせた真琴が声を弾ませて言う。

かっと顔を赤らめた銀花が慌てて顔を逸らす。


「…弱い自分の心に打ち克ち、仲間を信頼し続けることができるやつ…それが本当に強いやつだ。それは、喧嘩で強いのよりずっと価値があるんだぜ」

そう言って離れて行く真琴の背中には“生涯無敗”の文字が躍っている。


「なぁギン……お前もさ、そんなやつになれよな」

真琴は背中を向けたまま銀花に言う。


「………」

銀花は無言で俯いている。


「………少しだけ………」

やがて銀花が、ボソリと呟く。



「少しだけ………考えてみる」


そう言うと銀花も朝日を背景に立ち上がり、
真琴に続いて歩いて行った。


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「ぎ、ギンちゃん大丈夫!? なんかすごい音したけど!!」


鬼龍院家の浴室前、脱衣所。

鏡が割れる音を聞きつけた銀花の父、源太が
慌てた様子で駆け寄って来る。

割れた鏡の破片の中に立ちすくみ、
血に染まった拳を握りしめながら
ぼうっとしている娘を心配そうに見つめる源太。


「ああ……悪ぃ悪ぃ、ちょっとふらついちまってな」

過去の記憶から戻って来た銀花が、ふと口を開く。


「だ、大丈夫なの?」

源太がおろおろとした様子で再び声をかける。


「ああ……」

やがてゆっくりと振り向く銀花。



「大丈夫だ」


そう言って口元に笑みを浮かべた銀花の目は、
狼のように鋭い眼光を放っていた。


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〈『魅せます!銀の華』第15話完〉
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